滑走路

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果断―隠蔽捜査〈2〉





『果断―隠蔽捜査〈2〉』 今野敏

「あなたに限って、不正や隠し事はあり得ない。誰もが口をそろえてそう言いましたよ。だから、私はちょっとあなたに挑戦してみたくなりましてね……」

前作『隠蔽捜査』のシリーズ二冊目。
前作に増して、とても面白かったです。

主人公《竜崎》のキャラクターが、彼のことを知らない人たちに囲まれて働くことによって、前作より濃く浮かび上がっていました。
みんながいちいち彼の言動に呆然とするのが面白い。

伊丹との関係も、前作で竜崎の奥さんがからかった通り、「いいコンビ」になってきているのも良かったです。

相変わらず、過去に伊丹にいじめられたこと(伊丹はいじめていたつもりはない)を根に持っている竜崎ですが、彼の颯爽とした姿には、ちょっと嫉妬していたりもします。
「水臭いな。おまえと俺の仲じゃないか」と言う伊丹に、心の中でだから嫌なんだ。と呟く……。

他にも、逆に竜崎がポカンとしてしまうような、一枚、二枚上手なキャラクターが登場したり。

事件そのもの、その解決への経緯も十分楽しめるのですが、やっぱりこの《竜崎》が良くて、どんどん読み進んでしまいました。

前作で知ったのは『警察庁』と『警視庁』の違い。
そして今作で知ったのは『SIT』と『SAT』の違いでした。
警察小説はハマるなあ……。

龍は眠る





『龍は眠る』 宮部みゆき

我々は身体のうちに、それぞれ一頭の龍を飼っている。

いきなり騒々しい事故が起こり、それを発端に次から次へと慌ただしく話は進んでいきます。
気が付いたら夢中で読んでいて、悲しいことも、救いも、美しいことも、全てが清々しく収束する、とても後味の良い作品。
主人公の誠実さと、二人の少年の真摯さは非常に好感が持てて、それも物語に没頭できた一つの要因でした。

主人公の青年が、この二人に、「疑ってすまなかった」だの、「君を信じるよ」だの言うシーンは無いのですが、彼らが口を開かずに会話をしたという行為が、その言葉を超越する心の許し合いだったと感じ、素直に「良かった……」と、温かい気持ちになりました。

また、声を失った女性と、たどたどしい手話で会話をするラストシーンは、まるで少年と交わしたテレパシーのようで印象的。

とても深刻な文章の中に、宮部さんの余裕のあるユーモアがちらほらとあって、「あ〜宮部さんの作品だ」と、実感しながら読んでいける、内容、描写共に大満足の一冊でした!!

動機





『動機』 横山秀夫

「弱者のための記事を書きたい」。入社式の日、頬を赤らめそう挨拶した真知子は、いま、一歳の娘を残してこの世を去った主婦の無念さを思う余裕すらなかった。(「ネタ元」)

警察、犯罪者、記者、裁判官。
四つの短編集でした。

・動機
・逆転の夏
・ネタ元
・密室の人

表題作「動機」は、その評価も納得の素晴らしい作品でした!
ストーリーも、表現も、登場人物も、込められた深い心情も、この短編一つで横山秀夫に惚れることが出来る!
他の作品もどれも面白く、切なく、短編とは思えないほど濃密で丁寧な作品。

横山さんの本を読むのは、これで三冊目となりますが、いつも読後に残るのは、優しさや救いです。
作品に滲み出てしまう、横山さんのお人柄なのでしょうか。

どのお話も、主人公が打ちのめされ、絶望し、でも何かが残る、芽生えるのです。
なので、どんなに悲しかったり、悔しかったりする結末でも、ほんのりと心地よい余韻が残ります。
それに読者は救われるのでしょうか。

個人的にとても好きだったのは「ネタ元」。
社会に出て、希望と向上心を持って働く女性なら、一度はこんな風にがむしゃらに、周りが見えなくなることがあるんじゃないかな〜って思ってしまいました。

そして最後の「密室の人」は、妻と夫、それぞれの《密室》のお話。
今まで読んだ横山さんの作品にはない終わり方でした。

それぞれが独立した短編を集めた本ではあるものの、これがこの一冊の本の「ラスト」といってもいいような終わらせ方。
とても好きです。

隠蔽捜査





『隠蔽捜査』 今野敏

「俺のような立場と違って、官僚ならもっと楽ができるはずだ」
「ばかを言うな。国を守る俺たちが楽できるはずがない」
 伊丹は、しばらく無言で竜崎を見つめていた。やがて、彼はかすかに笑みを浮かべて言った。
「おまえ、それが本音らしいから不思議だよな」


難しそう〜と思って読み始めましたが、さっぱりとした文章で、とても読み易くおもしろかったです。

はじめ「いやな人……」と思った主人公を、読み進むにつれ、どんどん好きになってしまいました。
キャラクターが、ぶれずにしっかりと描かれているところが、この本の良さではないでしょうか。

事件、その解決よりも、その誠実さゆえに《変人》と呼ばれる主人公竜崎と、幼馴染伊丹との関係。竜崎を尊敬する部下の谷岡や、この先付き合っていくことになりそうな、大森署の戸高。
そして、竜崎の家族が、とても印象的でした。

警察のことも、わかりやすく、リアルに書かれていて、警察小説好きには嬉しい!
シリーズになっているようなので、読破したいです。

マーキングブルース





『マーキングブルース』 室井滋

29番のコインパーキングで、またおまえ達に会えたらいいのになぁ。

エッセイに定評のある室井さんの『初の小説』ということで、テレビで紹介されていて、たまたまその後図書館で発見したので、手に取ってみた本です。

大作を読んだ後だったので、さっぱりとしていて、読み易く、癒されました。

猫にまつわる七つの「エッセイ+ショート小説」という、個性的な作りで、室井さんのエッセイの後に、その体験から生じた猫目線の小説が書かれています。
幽霊だったり、生き死にだったり、恋愛だったり、飼い主との愛情だったり……。
なかなかバラエティに富んでいて、楽しめました。

自由な文体に、ちょっと戸惑いましたが、どれも心温まる物語。
伝わって来る、猫に対するただならぬ愛情!

やっぱり猫が好きなんですねえ。

終戦のローレライ





『終戦のローレライ』 福井晴敏

どっちだ? と浅倉は嗤った。ここで葬られたのは過去か、それとも未来か……?

『こうなって、こうなった』の、『こう』から『こう』までの描写が、とにかくくどいくらい丁寧で、じりじりと話が進んでいきます。
書き手福井さんの忍耐と、読み手の忍耐の勝負!
状況の説明から、たくさんの登場人物の背景、心情をじっくり描いてあるので、こちらもめげずにじっくりと読みました。
それが出来たのは、読んだ後に訪れる感動がいかに大きいかが期待できていたからでしょう。

福井さんの言いたいことを、言い切った! という感じの作品でした。
(福井さんご自身が「言い切った!」と思っているかはわかりませんが。)

現実に起こった出来事に沿いながらのフィクションなので、賛否も分かれるかも知れませんが、これを書こうとし、書き切った福井さんを尊敬します。

「戦って消えていく命」に涙が出ましたが、この戦いの意味や、死んで行った人たちの想いを「背負いながら生きていく命」に、もっと涙が出ました。
敗戦後、一度も戦争を起こさなかった日本や、戦争を知らずに育った人たちの健やかさを肯定するようなラストに、素直にほっとしました。

この作品に対する是非も、この作品に対する自分の立ち位置も、読みながら、そして読んだ後にじっくり考えることが、自分にとっての宝になるのではないでしょうか。

戦争のお話なので、あんまり入り込んで読むと辛くなります。目を覆いたくなります。
シンクロ率の高い方は、気をしっかり持ってお読みください!


映画の方は、アマゾンさんのレヴューでは「褒めている人を探す方が困難」という状況のようですが、鈴木はそんなに悪いとは思いませんでしたよ。
全体的にアニメっぽいので、さながらアニメの中で役者さん達が動き回っている『逆「ロジャーラビット」』な感じで。
アニメを見ている気分で見れば、色々と不自然に感じる部分も、あまり気にならなくなります。

パウラの口からあの歌声!? も、なんだか不自然ですが美しいですし。
ベニヤ板に描かれた空や海の絵の前で、役所さんと柳葉さんが演技しているかのように見えるシーンなんかは、むしろノスタルジックで芸術的。
パウラの、一人浮いてる時代錯誤な風貌なども、アニメと思って見れば「ヒロインだもね」と納得。

『ローレライシステム』の映像化は、素直に感動、興奮しましたよ!

ストーリーは「小説の大きな筋だけを残して、あとはほぼオリジナル」と思って見ると良いと思いました。
ここまで大胆に話が組み立て直されていると、もう「ここが違う、そこが違う」と、細かいことを言う気にもなりません。(パウラの歌が『椰子の実』じゃなかったことだけは「どうして?」ですが。)

これはこれで楽しんだらいい。
(浅倉大佐のフェロモンを楽しんだらいい。)



臨場





『臨場』 横山秀夫

検視で拾えるものは根こそぎ拾ってやれ

先日『半落ち』を読んで、「この人の本はいい!」と思ったものの、そう意気込んで他の作品を読んでガッカリ……ということになりやしないかと、少しハラハラしながら読みました。
しかし、もう、大満足!
とても素晴らしい一冊でした!

横山さんの作品は、内側に秘めた「熱」を、防熱の冷たい壁が包んでいるかのよう。
静かなのに力強さを感じます。
大げさに、感動的に飾ったりしないところが、とても素直に心に沁みて震えます。

この作品は《倉石義男》という、『終身検視官』という異名を取る一人の男を、彼に関わる人々の目から見て語られる八つの短編集です。
客観的に描かれる《倉石》は、カリスマ的で、温かくて、でも謎めいていて、どことなく不気味です。

決して深追いしないラストは、寂しさと、潔さがあって、「ああ、そうか……」と納得しながら本を閉じることが出来ました。

捜査一課調査官・倉石義男。
自殺と片付けられそうな案件を殺人と見破ったり、殺人と疑われた犯人を無罪と覆したり……
死者の残した思いを、真実を、根こそぎ拾ってあげる。
こんなかっこいい男が、日本のミステリー小説界で生きていたとは!

出会えて光栄です。

☆挑戦☆

赤川次郎作品どれだけ読めるかに挑戦。
'09/04
●三毛猫ホームズの推理
●三毛猫ホームズの追跡
'09/05
●三毛猫ホームズの怪談

'09/06
●一日だけの殺し屋
●怪盗の有給休暇

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プロフィール

鈴木はじめ

Author:鈴木はじめ
小説大好き。
毎日読んだり書いたり。
活字中毒を自覚。
ミステリーや時代劇。
青春や冒険。
金城一紀さん、
横山秀夫さんを敬愛。



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