火車

『火車』 宮部みゆき
別人です。あなたは別人の話をしている
話が、親戚の恋人で、失踪した女性を探すという出来事から始まり、どんどんことが大きくなっていきます。
あっというまに夢中になって読むことが出来ました!
一歩一歩、じわじわと事件の真相や犯人に近付いて行く、「古典的な刑事もの」という雰囲気と、カードローン、サラ金、自己破産など、現代の問題をテーマにしているところ。
主人公が刑事でありながら、怪我によって休職中。つまり。警察手帳無しで、地道に捜査をしていくところがおもしろかったです。
最後の最後まで、姿を現さなかった犯人と対峙する瞬間は、本当にドキドキして、手に汗!
紙がふやふやになりましたよ!
あと、犯人や、犯人と恋愛をする男性のキャラクターがしっかりしていて、とても良かったです。
二人の男性が出てくるのですが、二人とも似たところがあったり、犯人もとても賢明で生真面目なところがあったり……
ただ、その犯人の人生は、あまりにも寂しく悲しいものでした。
逮捕されることによって、救われたらいいなと思いました。
今まで読んだ宮部さんの現代小説の中では、一番興奮してラストを読んだ作品でした!
一つだけ……
宮部さんお得意の比喩表現が、今回はちょっと気になりました。
あまり「ほぉー」っと、しっくりくる表現が無かったかな……ううむ。
スカイ・イクリプス

『スカイ・イクリプス』 森博嗣
「バス停で別れたのよ」
『スカイ・クロラ』のシリーズの番外編で、主人公のそれぞれ違う八つの短編集でした。
シリーズ全巻読んだ人だけが楽しめる本だなと思いました。
どれも、主人公の目で見て感じたことだけが綴られています。
なので、状況の説明がほとんど削ぎ落とされていて、どのお話もコレという結末があって終わるのではありません。
まだずっとずっと続いて行く余韻を残して、主人公が目を閉じてしまうかのように、終わります。
それが幻想的なようでいて、逆に、すごくその目線に自分の目線がシンクロしてしまう感覚を味わえる独特な世界になっていて、読んでいてとても気持ちが良かったです。
本篇で「もしかして?」と感じていたことが、この本で「そうなの?」と、少し確信が持てました。
なにが、どこが、と聞かれれば上手く答えられないのですが、悲しくて悲しくて涙が出ます。
シリーズの、これが本当の最終巻のようです。
もう一度はじめから読もう。
何度も読もう。
一生読もう!!!
と、静かに心の中で、猛烈に感動してしまっています。
上記の引用文は、一番衝撃的で、ドキッとした言葉でした。

ねこのばば

『ねこのばば』 畠山恵
やっぱりただの犬神じゃなくて、佐助という名前がある方が、いいねえ。呼んでくれる人がいる方が、いいねえ……
今回も素敵な短編集でした。
・茶巾たまご
・花かんざし
・ねこのばば
・産土(うぶすな)
・たまやたまや
の五編。
とっても面白かった!
素晴らしい!
いつもの楽しいキャラクター達が、しみじみ、ほんわか、はらはら…畠中さんの短編は本当に逸品です!
一つのストーリーの中に、二つも三つものお話が詰まっています。
わざとらしく、派手などんでん返しがあるわけでは無いのですが、「ほう」とか「あら」とか呟いてしまうような、さりげなさがあります。
どれも、実はちゃんとしたミステリーなんですね。
あまりそう感じさせない『若旦那の肝の据わり方』や『仁吉や佐助の頼もしさからくる安心感』があります。
事件が起こっているのに、飄々としているのです。
そんな中でも、『ねこのばば』は、かなりミステリー色が濃かったように思います。
面白かったです!
(ちょっと「名探偵コナン」っぽいと思ってしまいました)
舞台もいつもの長崎屋ではなく、お寺だったのが新鮮でした。
『産土』は、仁吉の過去に続いて、佐助の過去のお話でした。
畠中さんが、うま〜く言葉で読者を騙してくれます。
とてもハラハラして、「嘘!」「まさかぁ」と思いながら、気がついたら手に汗でした。
また、『たまやたまや』では、ちょっと切ない恋……?
お春ちゃんの幸せを本気で願ってしまいました。
「おじいさまとおばあさまみたいに、家も金も要らぬほどの思いに、出会ってみたい」
と、一太郎は呟きます。
彼もそんな熱い恋を、いつかするのかな?
楽しみなような、寂しいような、そんな気分になりました。
理由

『理由』 宮部みゆき
僕もおばさんたちを殺したんだろうか。
『家族』がたくさん出てくるお話でした。
インタビューという形で話が進んでいくので、まるで登場人物に、読み手である自分の目を見つめられているような錯覚を起こし、初めは薄ら怖くて読めませんでした。
途中棄権してから数か月、やっと再び読み始め、軌道に乗ってからは夢中で読めました。
なんせたくさんの人、家族がかかわっているので、全ての人の話を聞くのは非常に根気がいて、時間のかかる作業です。
長いな〜と、正直思いながら読んでいました。でも止められない。
宮部さんの文章のうまさに救われた、かな。
過去の事件を思い出すように語る事件の関係者の言葉というのが、妙にリアルで、そこが面白かったです。
みんなが特別変わった境遇の人というのではなく、ひょいと自分もこんな風に事件に巻き込まれることがあったりして……と思えるような、怖さがありました。
事件後、幽霊が出るという噂が残るのですが、それもなんだかありそうな話でリアル。
読後、「家族を大切にしなければ」という、一種強迫観念に近い思いにとらわれたほど、入り込んで読めました。
満足!
すべてがFになる

『すべてがFになる』 森博嗣
「思い出は全部記憶しているけどね、記憶は全部は思い出せないんだ」
おもしろかったです!!
なるほど、これが『スカイ・クロラ』を書いた人のミステリーか……と、とても納得した一冊でした。
デビュー作ということもあって、緻密な力作!
現実的な部分と、幻想的な部分が混同して、まさに仮想現実の世界を感じました。
読めば読むほど混乱するようなところは、とても森さんらしいな、と思ってしまいました。
きちんと『謎解き』に終始してくれるのが、ミステリー好きには嬉しい。
事件が解決してからの、一エピソードも、余韻があっていいです。
登場人物が非常に魅力的で、会話もとっても面白く印象的です!
「(中略)情報が不足しているわけじゃないよ。考えが及ばないだけだ」
なるほど、と思いましたねぇ……ミステリーって、つまりそういうことか、と。
この独特の世界は、ハマれば夢中で最後まで読んでしまう。
そして読後しばらくこの世界から抜けられません……ぼや〜としてしまいます(笑)
疑心―隠蔽捜査〈3〉

『疑心―隠蔽捜査〈3〉』 今野敏
「余裕だな……。不倫でもしたらどうする?」
「乾杯してあげます。この唐変木がよく不倫なんかできたって……」
「本当か?」
「その後に、家から叩き出しますよ」
ぞっとした。妻をなめてはいけない。
隠蔽捜査シリーズの三作目ですが、随分前二作と雰囲気が違いました。
まさか竜崎さんの『恋煩い』とは……しかもその煩い方が少年の初恋のようで、微笑ましくて笑ってしまいました!
しかし、訪日する米大統領がテロの標的に! という一大事に、夜も眠れないほど煩っているので、少々苛々、もやもや……。
いつもの竜崎さんなら絶対にしない失敗の連続! もう!!
でも、開き直ってからの展開がとても面白い。
生意気な戸高君との仲も、すごく良くなってきている。
奥さんや娘さんに対する接し方の変化にも、心が温かくなりました。
(文句を言いつつも、竜崎さんに似て来た娘さんがかわいい)
更にキャラクターへの愛情が増す一冊でした!
永遠の仔

『永遠の仔』 天童荒太
あなたの魂は、美しいままです。
ずっと読んでみたいなと思っていた本です。
そのボリュームと話が重そうなのとで、なかなか手が出せずにいたのですが、先日妙に「大作を読みたい欲」が肥大して、とうとう読みました。
とても印象深い本でした。
きっと一生忘れられない本になると思います!
天童さんの作品は『包帯クラブ』しか読んだことがなかったのですが、こちらもテーマは《心の傷》。
でも、作品のイメージは全然違うもので、天童さんの幅の広さを感じました。
児童虐待や、アルツハイマーなど、決して明るく楽しいお話ではありません。
読んでいる間も、悲しく憂鬱にることが多かったです。
でもそれは、物語に入り込んで、登場人物の心の不安定さと同調出来たという証拠だと思います。
物語の作りのドラマティックさと、文章のうまさ。
長く憂鬱な物語を、最後まで緊張感を持って読ませてくれた天童さんはすごい!
ミステリー部分も、しっかりとラストまで真相がわからないように書かれていて上手い。
過去と現在の章が交互に出て来るのですが、それぞれの章が、お互いの章での出来事の「発端」や「影響」を語っているのが、おもしろいなと思いました。
でも、主人公三人の生い立ちや、ギリギリのところで生きているような現在などが、あまりにも深くて濃いので、その『ミステリー部分の上手さ』に驚く余裕がありませんでした(笑)
読後、余韻を味わいながら、「そういえばミステリーだったな……意外な真相だったな……」と思い出したりしました。
様々な登場人物の、様々な思いのどれか一つに、誰しもが必ず共感してしまう部分があるのではないでしょうか? と思ってしまいます。
この本に出てくる人の心の、様々な傷や暗い部分を、ひとつも経験せずに生きて来た人などいるのだろうか? と。
彼らが満たされず、いつも求めていたのは、親の愛情で、それが満たされなかった彼らは永遠に、それを求める《仔》なのでしょうか。
悲しい死もたくさんありました。
でも、残された彼らが、新しい人生を生きて行って欲しい。
救いのある終わり方で、少しほっとしました。
読んで損のない作品!
自分の人生の宝になったと思います!






